下請合理化政策と主婦の内職 その1
女性の城“仕上げ”
アニメ制作の下請合理化政策は、海外下請化の一方で家庭の主婦たちの内職を広めました。それは、“仕上げ”といわれるトレスとペイントの分野で顕著でした。
傷つきやすいセル版に繊細なトレス線で描き、美しい色を根気よく塗って仕上げる仕事は、女性の仕事にふさわしいと当時は思われたのでしょう。東映動画や虫プロなど大手製作会社では、どこでも仕上げ部門は若い女性たちの城でした。男性が多いアニメーターや撮影部門の若き労働者たちには、それはそれはまぶしい世界でした。
見た目はきれいな仕事ですが、要求される職能技術は厳しく、水をはじきツルツルのセルの上にミリ以下の細い線で自由自在に曲線や直線を描き、絵の具をムラなく薄く塗る技術は無形文化財もので、ベテラン技術者はアニメーションを支える技術者としての誇りを持っていました。トレスやペイントしにくい動画を描くと、仕上げから怒れれるので動画マンは必死できれいな線を描くことに努めたものです。
内職化する“仕上げ”
やがて結婚した仕上げの女性たちの多くは、職能の誇りを犠牲にし、泣く泣く家庭に入り子育てに専念。その主婦たちの職人意識や労働意欲を、かっての職場は家庭内労働力=仕上げの内職者として再組織し始めます。
鍛えられた技能に、ライトテーブル、タップ(セルを固定する道具)、絵の具、筆、筆洗、洗浄液(シンナー)、ムース皮などの七つ道具がそろえば、作業そのものはどこでも出来ます。制作会社は、映画やテレビの仕事が追い込みに入ると、セッセと主婦となった技術者の家にカットを運びました。
見た目はきれいな仕事で、しかも子どもの大好きなテレビ番組の一端を担いつつ現金収入になるとなれば、一般の女性や主婦たちにとって魅力的な仕事と映ります。やがて、それを巧妙に活用した新しい商法が始まります。(つづく)