テレビアニメの動画１枚単価と喫茶店のコーヒーの関係

1985年発行「アニメれぽーと」15号（現在在庫切れ）では、「動画一枚単価と諸物価の価格の動き」を紹介しています。




42年間で値上げされた金額＝わずか100円

1968年（昭和43年）。動画の１枚単価は約80円。喫茶店のコーヒーは約90円。
アニメーターは、動画１枚描けば喫茶店のコーヒー１杯を飲む事ができました。

現在、喫茶店のコーヒーを仮に平均500円、動画の平均単価を180円とすると、動画を2.7枚描かないと、喫茶店ではコーヒーが飲めない計算になります。

ちなみに某ファーストフードのコーヒーＭサイズは220円。動画を1.2枚描かなければなりません。
某チェーン店のオリジナルブレンドは１杯450円。動画2.5枚描かなければなりません。
某有名喫茶店のオリジナルブレンドは１杯880円。動画4.8枚描かなければ飲めません。


しかも、「セル＋フィルム」と「トレスマシン＋カーボン」の時代と違い、デジタル彩色に対応するため作業の手間も増え、色トレスや影の指定の密度も増しました。線が途切れないように常に注意を払い、セルの時代よりもさらに細く均一の線を保たなくてはなりません。色鉛筆による影の塗り分けは、わざわざ作画用紙の裏に塗らなければなりません。
昔はキャラクターや小物に影が付かないカットも多数ありましたが、近年ではキャラクターや描きこみの密度が年々増しています。
それどころか、未だに１枚120円、130円という下請会社もあると聞いています。


作業内容・作画密度・リテイクの量は昔の倍以上

原画の単価は多少上がりました。しかし、昔はある程度ラフな原画でも、動画マンが線を拾って奇麗に清書し、原画マンもそれをチェックする事がある程度可能でしたが、現在では、動画に携わる人は、仕事場も国も別々。動画同様、キャラクターの密度や描きこみの度合いは年々増しています。
また昔には存在しなかった原撮用、または演出・作画監督チェック用のラフ原の作業が増え、海外の動画マンに負担をかけずリテイクを事前に防ぐため、動画並みの細かい描写と原画枚数、多数の中割り参考用の作画が要求されます。

昔は、職場で動画の技術を原画マンから直接教わる事ができましたが、今は会社に入っても、仕事のほとんどが海外に出されているため、仕事も満足に無く、会社にいる先輩のアニメーターは、放映日ぎりぎりまで、海外の直しに追われています。オンエアが終わっても、今度はＤＶＤ用のリテイク作業に追われます。勿論、別途手当てなどは出ません。
仕事の手間・密度・時間は２倍にも３倍にも膨れ上がっているのに、１枚単価と物価の比率は、ここ数十年、ほとんど変わっていないのです。


生活の保障はできないと記された求人広告　製作委員会は見てみぬふり

近年、製作委員会側は、海外に出せば数日で二原（第二原画）・動画・仕上・撮影などが上がってくる事、そしてアニメーターや下請会社から、将来的にも表立った不平・不満が出ない事を知り、キャラクターやシナリオには比較的十分なスケジュールを割くようになりました。
しかし、肝心の作画以降の部分については、毎回突貫工事のような修羅場の現実を知りながら、それらは元請会社の管理責任とし、末端スタッフの健康と安全について見て見ぬふりをしてきました。政府や関係省庁の態度も同じです。

まともな雇用契約を明記した求人広告が少ないので、テレビアニメの仕事を希望する一般学生は、有名な一部の会社以外に、いったいどんな会社が、どこにどれだけあるのかがわかりません。

近年では製作委員会側からも、キャラクターのリテイクが出されるようになりました。
仕事ですからリテイクが出る事も当然ありえますが、それならば「それに見合う単価と十分なスケジュールを」と思うのが人間の心理です。


若手アニメーター育成の最優先課題は「動画」１枚単価の引き上げ

私達が放送の最終的責任を担う放送局への訴えを通じて、著作財産権を占有する製作委員会の皆さんに求めている事は、極端に大幅で無理のある制作単価引き上げではありません。

もし経済産業省や文化庁が言うように、日本のアニメが１兆円の利益を産む可能性があり、毎年巨額の血税を投入しているのなら、せめて昔のように、アニメーターが動画１枚描いただけで喫茶店のコーヒーが１杯飲める状況に戻してほしいだけなのです。

実際にテレビで放送され、著作物の二次利用で限りなく複製・売買される大元の絵「動画」を支えている人たちが、憲法で規定されているような健康的で文化的な生活が普通にできるように、まずは、若手育成に最も密着した問題、元請・下請の関係なく均一な「動画１枚単価から見直し」（局や民放連から製作委員会へ注意・要請など）を考えて欲しいという事なのです。


テレビアニメの絵１枚単価の値上げ　42年間でわずか100円
集団的労使関係（責任をとるべき本当の相手は誰か）