アニメーターのための撮影技術の手引き

　1970年～1980年代、まだ、アニメーションをセルとフィルムで撮影していた頃、アニメーター・演出の人が記入するタイムシート（撮影の基準となる指示書）の「撮影指定」が人によってまちまちで、さらに、アニメーターや仕上の人も、撮影台やカメラを実際に見た事の無い人が多く、撮影用セルのタップ（絵を固定する器具）位置がバラバラだったり、撮影の人が困っていた時期がありました。
　撮影会社によっては、ある程度統一してほしいと、ガリ版刷りとかコピー紙のような物で、撮影技術マニュアルを独自に配布している所もありました。しかし、過密ジュールと、分業化・下請け化が進むアニメ業界では、全員に行き渡る事がむずかしかったようでした。
　当時、映産労では「技術研修会」という自主的な勉強会を開いており、「アニメれぽーと」にも、毎回連載していて（執筆者は旧ドラえもんの作画監督・中村英一さん）、「労働条件の改善や賃上げも大事だけれども、アニメの仕事をしている上で、技術や質の向上も重要である」と、読者や視聴者に広くアピールしていました。動画技術に関しては、その後「アニメーションの本」（合同出版刊）にまとめられ、多くのアニメーターの教科書として愛用されました。
　その後、1980年代に入ると、今度はアニメのカメラマンを講師に招き、「撮影技術研修会」という勉強会を開きました。（第一回は、東映動画（現東映アニメ）撮影部の方達の全面協力を得て、撮影台を囲んでの勉強会となりました。）
　こうして、各撮影会社から現場に配布されたマニュアル、「撮影技術研修会」で話し合われた事に、大幅な取材・補足を追加し「アニメーターのための撮影技術の手引き」という1冊の本をまとめました。この本は、組合内外の多くの人の協力で出来あがりました。大量に必要な図解などは、スケジュールに追われるアニメーターが、皆仕事の合間を縫って描いたりしました。1984年以降も、増版のたびに巻末のアニメーションの会社の連絡先一覧など改訂作業が続きました。
　現在では、ほとんどの作品が、セルやフィルム、撮影台を使わないデジタル撮影になりましたので、この本の需要は減りましたが、1990年代までは、アニメの専門学校をはじめ、各所で利用されていたようです。
　また、「台引き」とか「カメラぶれ」「透過光」「密着マルチ」とか、フィルム時代使用された用語もかなり残っていて、打ち合わせやタイムシートなどで現在も引き続き使用されています。新しくアニメの仕事をされる方は、時間がある時に「フィルム撮影時代」の資料などをご覧になると、各用語の語源などがわかると思います。（ｈ）
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