2013年1月11日・今年初の官邸前抗議映像とコラム

2013年1月11日　首都圏反原連　官邸前抗議2


昨年12月28日、2012年最後の抗議・国会正門前


2013年1月11日　首都圏反原連　官邸前抗議3


上の映像の冒頭に出てくる、永田町の暗い歩道。今でも忘れない。初めて官邸前抗議に参加した日の事を。
一度でも参加した人ならば、この最初に地上に出た瞬間に受ける音の臨場感を、生涯忘れないはずだ。

冬の抗議になると、夏と違い、あたりは早々に暗くなり、冷え込みが厳しくなる。それでも、国会周辺駅から地上に出てすぐに聞こえる永田町一帯の抗議の声は、安保闘争以来、近年初とも言える日本のオキュパイ、紫陽花革命が出現した瞬間とまったく変わりがない。

2011年3月11日、福島原発が爆発する映像がテレビに映し出された。もうこれで関東は放射能だらけになる。もう終わりだ、そう思った。
輪番停電（計画停電）が終わった頃、テレビは通常の番組を流し始めた。スーパーの食品売場では、産地や放射能汚染を心配する人と、まったく平気で買い物かごに野菜を入れる人に分かれた。
国民全員に地デジ化を強いたテレビは、震災前と同じように、お笑い番組や、長々とした通販番組などを流すようになった。かつては見ていたバラエティ番組番組も、あの忌まわしい原発事故と流出しつづける放射性物質、避難先の人たちの事を思い出すと、笑う事ができなかった。ニュース番組では、原発や福島の事より、グルメ・リポートや芸能人の話題の方を大きく取り上げるようになった。

街では、まるで何も無かったかのように、娯楽や自由を謳歌する消費者でにぎわうようになった。
野田総理（当時）は、まさかの「原発事故収束宣言」を行なった。東電は、すでに海外から冷やかな目で見られていた。

311直後から、あらゆる情報を発信していたのはインターネットだった。
インターネットでは、情報を交換しあい、全国各地でデモや抗議などが行なわれ、その情報や記録は、市民メディアをはじめ、ユーストリーム、Youｔｕｂｅなどで即刻配信されていた。

2012年。避難先で苦しんでいる人が大勢いるというのに、街では大企業や一部の富裕層主導による最新流行の娯楽やイベントが華々しく展開されていた。一方で、一般的な職場や、親しい人達との歓談の席では、原発・放射能の話題はタブー視されるような雰囲気（サイレンス・スパイラル）が出来上がっていた。
何かが違う。私たちはこうして今生きているが、「津波や原発事故の被害を受けずに済んでラッキー」とは思いたくない。同じ悲劇を繰り返さないために、少しずつ何かを変える必要があるはずだ。
いてもたってもいられなかった私は2011年6月29日、官邸前抗議に参加した。ほかに、思いのやり場を持っていく方法が見つからなかったのだ。

デモに初めて参加するまでは、非常に不安だった。逮捕されるのではないか、職務質問されるのではないか。正直、怖かった。

地下鉄に乗り、永田町駅、国会議事堂駅などが近づいても、乗客に変化はない。
駅に着いても、参加者らしき人が降りる気配もない。本当に抗議活動は行なわれているのだろうか。
改札を出ると、参加者らしき人がちらほら見える。
駅の階段を登る。6月はまだ18時といっても、空は明るかった。
地上に出ると、主催者の人が案内をしていた。警官も同じように案内や誘導をしていて驚いた。
警察官は「すみませんが、迂回してください」「官邸前抗議に参加される方はこちらです」と、想像とは異なり低姿勢で誘導していた。
311直後、昔から活動していたたんぽぽ舎などは、経産省前などで抗議行動を行い、映像もネット配信されていた。しかし当時は、大人数の警察官に対し、抗議者わずか数人程度といった感じであった。官邸前抗議もスタート時はかなりの少人数だったそうだ。



2012年6月29日は官邸前に20万人があふれた日である。当時は、車道も少し使えて、20万人の人が大きなうねって官邸前を巡回したり、思い思いの場所で声を上げたりしていた。
基本的に非暴力・シングルイシューによる抗議。反原発以外のメッセージやのぼりはゆるやかに禁止されているが、それ以外は出入り自由、アピール方法も自由。一般の人にとっては参加しやすいスタイルだったかもしれない。抗議終了時間とともに一斉に解散、その後にはゴミひとつ落ちていない、という日本人の抗議スタイルは、海外の取材陣を驚かせた。
当時はまだ道路封鎖がされておらず、官邸周辺を牛歩ながら一巡できた。大規模な人数なので、一回隊列に加わると、一巡するまで長時間かかる。おびただしい数の抗議の声が、永田町一帯にこだました。
永田町に定期的に行くようになると、周辺の地理やトイレ事情などもわかってくる。
国会周辺では黒塗りの高級車による信号無視が横行しているが、警官は見てみぬふり、なども、官邸前に通うようになって、初めて知った事だ。

よく主催者発表と警察発表に人数の差があると言われる。
主催者はあらかじめ用意したチラシのはけ具合、各駅前や見回りカウントなど、独自の方法で参加人数を割り出しているそうだ。一方、NHKなどがよく利用する警察発表は、よく見ると「警察関係者」発表となっていて、人数の割り出し方も、警察の何の関係者かも明らかにしていない。もっとも、これだけ多くの参加者による撮影映像があふれているわけだから、その規模は一目瞭然であろう。



何回も伝えられた事だが、311以降の反原発デモや抗議は、それまでの組織的な反核・反原発運動から変化を見せ、主にサラリーマンや家族連れ、老人夫婦や学生など、普通の人々がバラバラに集まった集合体が圧倒的多数となった。市民運動の人も、国会議員も、俳優も、ミュージシャンも、福島から来た人も、関西から深夜バスでかけつけた人も、若者も老人も、赤ん坊を抱いた家族連れも外国人も、普通に隣り合わせで、同じ一個の人間として一緒になって抗議の声をあげた。

大手の新聞やテレビも取材に来ていたが、ほとんど報道されることはなかった。そのため、今も地方に在住する老齢者の中には、この事実を知らない人が圧倒的に多い。
NHKや、全国紙にニュースを配信される時事や共同などの記事効果は意外に大きく、選挙に直結する事は意識しておくべきだろう。ちなみにNHKは国内の数十万人規模のデモ・抗議は報じなかったが、海外での数百人のデモはこまめに報道している。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2012年6月30日付・東京新聞
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2012年6月30日付・しんぶん赤旗

2012年7月17日、17万人が全国から東京・明治公園に集まった。海外のメディアは報道したが、国内のテレビではほとんど報道されなかった。ＮＨＫの19時のニュースでは取り扱われず、怒ったネット・ユーザーが、ツイッターで連絡を取り合い、21時のニュースでは、何とか映像の一部をオンエアさせる事に成功した。この時、ＮＨＫ内でも抗議してくれたＨキャスターの存在をツイッターを通じて知った。

それまでの大手メディアの姿勢に危機感を募らせていた市民は、カンパによって、「正しい報道ヘリの会」やインターネット市民メディアにヘリを飛ばさせ、連携的な空撮を成功させた。その写真や動画映像はすぐにクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで全世界に配信された。

　　　　　　2012年7月17日「正しい報道ヘリの会」による空撮　（cc） NODA Masaya / JVJA

2012年7月29日、20万人が今度は国会を360度取り囲んだ。
商業アニメーションの仕事をしているアニメーターや演出家などの参加も見られた。
しかし、またもテレビはほとんど無視。大手新聞は小さな囲み記事程度の扱いで、100人程度の小さな集会にしか見えない写真を使用した。上空には取材のヘリが数機いたが、空撮写真と映像を公開・配信したのは、「正しい報道ヘリの会」とネット・メディアだけであった。

官邸前抗議や国会包囲などが終わると、来た時とはうってかわって、周辺の駅の改札やホームには、多くの参加者でごったがえす。来る時の緊張感も吹き飛び、帰りには大勢の参加者と一緒なので、プラカードを持っていても恥ずかしくはない。
しかし、電車が来て、官邸前を離れると、またいつもの、何も無かったかのような毎日に引き戻される。

　　2012年7月17日「正しい報道ヘリの会」による空撮　（cc）Ryuichi HIROKAWA / JVJA

2012年は、ほぼ毎週金曜日に官邸前抗議が行なわれた。主催者が国会大規模包囲などで労力を割かれる週には、別団体が主催になり、継続してきた。
国会包囲は2回、さようなら原発1000万人アクションの主催による代々木公園大規模集会も2回行なわれている。
勿論、原発事故以前からの抗議活動、2011年から行なわれてきた経産省前抗議、全国に飛び火した反原発デモなど、多数の抗議活動が今も日本各地、そして海外でも続けられている。

それらを記録・伝えているのは、個人のブロガーや、動画等サイトを利用しているユーザー、原発事故前から反原発運動や勉強会を続けているたんぽぽ舎、そして、アワプラ、IWJ、金曜日、赤旗、8bitニュース、レイバーネットなど、どちらかというと少数派で、権力や世界金融利権共同体から一蹴されているインディペンデントな存在だ。東京新聞は、311以降、市民の側に立ち、原発利権構造を追及し始め、支持を得た。自由報道協会やニコニコ動画もかなり広範に報道、一部BS・CS放送でも、御用学者ではない原発の専門家・小出裕章氏や、原発津波事故を国会で追及した吉井英勝氏らを出演させた。ラジオ・たね蒔きジャーナルは、原発を危惧する層から支持されていたが、番組終了させられてしまった。






しかし、311が無かったら、たぶん知り合う事の無かったような人たちと、ネットを通じてたくさんのつながりができた。
国や大企業、大手メディアなどに、事実を隠蔽されまいと、多くのブロガーが、毎日、様々な記事やデータ、集会記録や海外の情報などを今も記録し続けている。数々の架空キャラクターや若手芸人やタレント、ミュージシャン、写真家、デザイナーらが日々つぶやき、作品やメッセージをアップロードしている。
これらテキストの数々は、今までたびたび日米や政府の意向で、時の政治に不都合なデータを抹消されてきた国会図書館に相当するぐらい、人類の貴重な財産として後世に残るのではないか。政府はたびたびツイッターやネットの規制を図り、原発はじめとする日米主管による機密の数々を隠蔽しようとしたが、独裁軍事政権でも作らない限り、隠蔽できなどほど、一人一人の市民・個人によって国家機密は記録され、拡散されている。

これらの輪は、原発・放射能問題だけでなく、TPP、著作権法改悪、ACTA問題などへ繋がり、かつてからあった青少年育成条例や児童ポルノに名を借りた表現規制、さらにはダンス規制やがれき問題、国家による言論監視問題、総選挙、東京都知事選問題、さらに大きく捉えれば、弱者を差別し虐げている構造・多国籍企業や世界の経済問題、環境問題や食の安全問題など、数々の社会の歪みの問題意識化と絡み、大きな意識体として、従来の日米による大企業・政府中心の利権構造体に対し、疑問符と異議を投げかける側面を生み出した。

東北・関東で広がる放射性物質による食物汚染、現在も避難生活を強いられている被災者、今も放射線物質を大気や海中に流し続ける福島第一原発。
再び同規模の地震が起きれば関東はおろか、日本、そして子供の将来は惨憺たる地獄となる。そんな大事な事を、テレビや大手新聞（東京新聞は除く）はほとんど報じず、いまも連日、ひたすら時間とお金の浪費を仕向けた番組やCMを流し続けている。
巨大地震が公的に確定しているのに、防災対策よりも、巨大開発や海外ビジネス、五輪招致などに税金を使う為政者や首長たち。彼らもまた、メディア・コントロールの恩恵を得て地位を獲得している。

放射性物質は、目に見えず、味もしない。被爆、もしくは低線量被曝による癌は、その因果関係の立証が難しい。原発を推進する層だけでなく、近代から世界で（主にアメリカで）合成化学物質による商品・食品の世界流通、各種企業の汚染物質垂れ流し、劣化ウラン弾など、核燃料を使った紛争や戦争を推進する側にとっては、非常に都合が良い。彼らから見れば、唯一の被爆国である日本の被爆者や、戦争経験者が高齢化したり、亡くなられたりして、その恐ろしさの語り継ぎが途絶える事は、さらに好都合な出来事であろう。

野田政権時代、政府関係者の誰かが「国民は飽きっぽいから、反原発運動など、すぐ終わる」と、言ったらしい。
ゆっくりアニメーションについて語れるのは、まだ先だ。全原発廃炉はもちろん、その先に控えている問題…、現在ある使用済み核燃料・いわゆる核のゴミの最終処分方法、さらに来るべき大地震など自然災害対策、放射性物質や発ガン性添加物などによる食品汚染、世界各国が領土拡張や民族差別などによる侵略戦争、戦争の前夜状態とも言える言論・表現規制、国家や財界による労働組合へのネガティブ・キャンペーン、暴力的経済政策…。
このブログで、アニメーションをゆっくり論じ合い、楽しみあえるのは、生活者・子供の未来を脅かす様々な問題が真の意味において収束し、生命や健康が脅かされる事のない、安全で平和な社会の持続が確認できてからである。（K)