日本のアニメ制作現場の窮状 その１

お待たせしました！
　担当者が風邪をひいたがため、掲載が遅れましたことをお詫びいたします。
　みなさんんも風邪にご注意を！


　先日予告しました映像新聞掲載の「日本のアニメ制作現場の窮状」を、今日から連載します。取材と執筆はオフィスＨ（アッシュ）の伊藤裕美さんです.膨大な量ですので、１０回ほどに分けてご紹介します。
　この内容は、映像新聞（2005年1月17日、24日、31日）に連載されたものです。執筆者の伊藤裕美さんと、映像新聞社のご協力に心から感謝します。

日本のアニメ制作現場の窮状 その（1）
　　 　
　「だれがつくるの？　日本のアニメ」という集会が、アニメーション事業者協会、日本俳優連合外画動画部会、アニメ共闘会議、民放労連、アニメミュージアムの会等が中心となるアニメーションの明日を考える懇談会によって昨年１１月末に開催された。アニメ制作現場の低賃金と厳しい労働環境を一因とする人材難や国外発注増加による空洞化へ危惧の念を抱く百名以上の人々が集った。アニメと関連ビジネスは、国内でも１兆あるいは２兆円の規模と見られ、競争力ある輸出品目として認知されている。しかし、その有望な産業の足元を揺るがす事態が進み、制作現場の努力と忍耐だけでは支えきれなくなるという危機感が深まっている。現場に身を置く人々は、アニメが産み出す価値の利活用のみに光が当てられる現状に対し、「アニメーターの生活難を改善し、新しい人が育つ環境を確立させる」ことを訴え、行政のアニメ産業振興策もその基本に立つように求めている。(オフィスＨ　伊藤裕美)



《本文》
◆業界関係者が危機感
集会では、アニメ業界の構造的問題を端的に示す実演がなされた。野沢雅子氏、柳沢三千代氏、田原アルノ氏といった日俳連所属の声優たちが、動画が仕上がる前に行われるアフレコ収録現場、いわゆる“白味線撮り”を少々誇張気味に再現した。業界事情に詳しい人ならば、白味線撮りが常態化していることは百も承知であろう。“白味線撮り”の起こりは、撮影するカットの絵の仕上がりが予定期日に間に合わない場合、そのカット部分を真っ白で（白味）撮影し、その上にセリフや音を吹き込むタイミングを赤や青色の線で描き入れて収録するという苦肉の策だった。この起源はTVアニメ創成期近くまで遡る。７０年の『あしたのジョー』（虫プロダクション）には白味線撮りがあり、７５年以降に急増する。映像・文化関連産業労働組合（映産労)が発行した「アニメレポート　No.6」（７５年）には、東映動画の『鋼鉄ジーク　第６話』の九割、東京ムービーの『元祖天才バカボン　第９話』の３分の２は白味線撮りであったと報告されている。しかもテレビアニメに限ったことではなく、『火垂るの墓』(１９８８年)でも、劇場公開後しばらくの間は５カットくらいに白味線撮りの跡があったと言われている。
　フィルムからデジタル制作になった現在でも、線の代わりに「○○のセリフ」というテロップや、口だけパクパク動くCGの“仮キャラ”画面、動画や原画を撮影したもの、レイアウト撮や絵コンテ撮を見ながら旧態依然と録音しているという。色や動きのない画面を見ながらでは人物への感情移入もままならず、まさに神業的な作業を声優は強いられる。緊急避難のつもりだった部分的カットの“白味線撮り”が全編に及び常態化した昨今では、ベテランしか本番のカットで収録した記憶がなく、若手の中には最初から白味線撮りという人もいるという。
白味線撮り用には余計な手間が要る。原画家は、原画撮影を見越してラフ原画にタイミングを付けて出すのが慣習化する現場も少なくない。通常の１０分の１程度の料金で、作業が増える撮影所も割りは合わない。しかもラッシュ前のダビング段階で音と絵の修正ができるなら良いが、最近はそれすらできない強行スケジュールが頻発し、質の低下が心配され、事実様々な問題がある。しかもデジタル制作になってからはラッシュ試写が減り、アニメーターも声優も自らの仕事の結果を放映された画面で確認するというお寒い実情だ。（つづく）

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